2013年2月3日日曜日

国民の力で国家間の憎しみを減らせるか


イスラエルのテルアビブ在住のグラフィックデザイナー Ronny Edry さんによる"Israel and Iran: A love story?" は私が一番好きな TED talkの一つです。




私は過去二回ほどイスラエルという国に行ったり、イスラエル人と話すことも何度もあったのだけれど、彼の国で歩いているとマシンガンを持っている人が歩いているし、話をしているときな臭い話は避けて通れません。昨年は、イスラエルの友人が Androidの開発者向けイベントを開催している最中に警報が鳴り、全員に帰宅命令が出て、その友人はすぐに徴兵されました。(緩和されたのですぐ戻れた)

Ronnyさんはプロジェクトを始めた背景についてこう語ります。「数日前、食料品店で列に並んでいたら、店主と客が話してるんですよ。もうすぐイスラエルには1万発ぐらいミサイルが撃ち込まれるね。いやいや一日1万発の間違いじゃない?イスラエルの現状はこういうことなんですよ。」

そこで、こんなポスターを作って Facebook にアップした。いつもは自分の Facebook アカウントには何の反応もないのに、知らない人から反応がたくさん来ていた。中にはイランの人からも。イスラエル人とイラン人は話す機会がない。それなのに今回ばかりはたくさんのイラン人からメッセージが届き、たくさんの人がこのポスターをシェアし始めた。


奥さんが「私のも作って」というので奥さんの分も作った。


友達、ご近所さん、生徒たち、みんなのポスターを作り始めた。


それを見た人々が「自分も参加したい」と写真をどんどん送ってきた。「私はイスラエル人です。私はイラン人が好きです」のメッセージを、自分も出したい、と。

送られてきた写真の数があまりに膨大になったので、グラフィックデザイナー仲間の友達に自宅のリビングに集まってもらい、手伝ってもらって、ポスターを作り続けた。


そしてイランからはたくさんのメッセージが送られてきたので、これらのコメントを使ってポスターを作り始めた。「あなたは私にとって初めてのイスラエル人の友人です。両国とも愚かな政治家をなくせたらいいですね」




このメッセージはイラン人で毎日学校に入るときにイスラエルの旗を踏みつけて入らされている女の子から送られてきたもの。(キリシタンの踏み絵みたいなことが行われているんですね)彼女にとってはこのポスターを見たことで、イスラエルの旗への想いが変わったと伝えています。



そして数日後、なんとイラン人がポスターを作って送り始めました。「イスラエルの皆さん、私はあなた達を嫌ってなんかいません。戦争もほしくないです。愛と平和を」「イスラエルの皆さん、私は爆弾なんか嫌いです。ただ対話を求めているだけです。愛と平和を」



今まで敵とされ、対話が遮断され続けてきた国民同士が、Facebook上で、「イスラエル人を嫌ってなんかないよ」「イラン人を嫌ってなんかないよ」と直接コミュニケーションを取り始めた。



多くのメディアが取り上げた。「報道が取り上げる中東のニュースって悪い物ばっかりでしょう。これは珍しい、いい話なんだよ」

CNN:Peace-minded Israeli reaches out to everyday Iranians via Facebook
The New Yorker: Israel Loves Iran (On Facebook) 
Al Jazeera: Israel hearts Iran

「イスラエルの電話からイランの番号に電話をかけることはできない。通話が接続されないのだ。コミュニケーションの遮断は政府レベルで行われており、両国間で行われる対話は戦争の脅威の話ばかり。だけど、このRonnyさんのプロジェクトを通じて、イスラエルとイランの国民の間で対話が生まれたのです。」

そしてそれが更に他の地域に Lebanon loves Israel、Slovakia loves Iran、Iranians loves America。。。。と広がっていく。



そして、一時期、Google の画像検索で "Israel" と検索すると、これらの写真がトップに出てくるように。



イランも。



Israel loves Iranのページには8万のlikeと200万のアクセスが。

これはテヘランに住むイラン人が作った Iran loves Israel の Facebookページ。イスラエルの人とイランの人が、お互いに敬意と共感を送り合っているのです。敵同士だけれど。


そして Facebook 上では友達になれる。オンラインでは。

更に、Ronny さんはイランについての講演をするためにミュンヘンに行き、ドイツからもフランスからもオランダからもイスラエルからもたくさんの人が集まり、敵とされている人々と初めて顔を合わせることに。お茶して食べ物の話、バスケの話、様々な話をして、現実の世界でも友だちになっていった。




更にはドイツ在住のイラン人でイスラエルを恐怖の対象としてしか認識していなかった女性が、このプロジェクトを通じてイスラエル人と対話を始め、イスラエルに来ることになった。恐ろしいと思っていたイスラエルも来てみたら「たいしたことないじゃん!」と。


数ヶ月前イスラエルとイランの国際情勢が悪くなった時に、政治家の皆さんに向けてイスラエルの市民たちが始めたキャンペーンはこういうもの。


そしてイラン人たちも送り始めた。「NOT READY TO DIE IN YOUR WAR!」




もちろんイスラエル人も、そしてほかの色々な国からも届き始める。



太平洋戦争中の日本だったら「非国民」とかしょっぴかれてるところですね。実際、これらの写真をよく見ると、初期の頃のIran loves Israelのキャンペーンのイラン人達の写真は顔を隠したり、靴を使ったりしています。イランでこういう活動を行うのは非常にリスクが高いからです。でも、今回の Not readyキャンペーンでは、イラン人も含めてみんなが顔出しでNOを突きつけている。

「僕たちはイラン人で世界を愛している。人を殺したくないし、殺されたくもない」



ブログだと数枚しかないように見えると思いますが、ぜひ講演動画を見てください。ものすごいたくさんの人がおこなっています。

Ronnyさん自身も徴兵されてパラトルーパー部隊にいたので、お花ルンルン気分でこんな活動をしているつもりはなく、戦闘現場のこともわかっている。だけど、あえて言う。イスラエルは民主国家で、言論の自由もあるはずだし、小さな取り組みが大きな結果をもたらすことだってあるのかもしれない。

そして TEDxJaffa の会場のみんなからイランの皆さんへ。。。



「イランの皆さん。父親、母親、子供、兄弟姉妹である皆さん。皆さんと我々が戦争をするためには、お互いに恐れを抱いていなければなりません。嫌い合ってなければいけません。私は皆さんを恐れていません。嫌っていません。皆さんのことをよく知りません。イラン人に傷つけられたことはありません。イラン人に会ったこともありません。パリの美術館で一人会ったことはあったけど、いい奴でした。テレビでイラン人を見たことがあります。彼は戦争のことを話していました。でも、彼はイラン人すべてを代表しているわけではないでしょう。あなたがイランのテレビでイスラエルがイランを爆撃すると言う話をしているイスラエル人を見たら、思い出してください。その人はすべてのイスラエル人を代表しているわけではありません。」

民主主義ってなんだろう。国民の代表であるはずの政治家と、国民の望むことの乖離がすごく大きく、今の民主主義って壊れているなあと思うことが多い。


今、私が関わっている GDG (Google Developers Group) という開発者コミュニティは全世界で361箇所の街で活動しており、国自体は敵同士のところもある。だけれど、お互いにテクノロジーを愛する技術者同士で、敵も味方もない。教えあい、学び合うグローバルなコミュニティだ。ここでは仲良くやろうと。2012年11月20日、パレスチナとイスラエルの情勢が非常に悪くなったのを受けて、ドイツのGDGから「イスラエルのみんなのことも、パレスチナのみんなのことも心配しているよ。シリアのみんなのこともね。戦争なんてなくなればいいのに。」とのメッセージが出され、「シリアから、ありがとう。市内は大丈夫だけど国はめちゃめちゃだ。毎日生き延びてるよ」「ここイスラエルではなんとか普通に生活しようとしているけど、南では3人の市民が死亡し、警報が一日中鳴り響いている。避難所で過ごすことも多い。こんな事態でも役に立つ物を作ろうとハッカソンを計画しているんだ。国はこんなだけど、パレスチナのみんなとコラボできたらいいなって思ってる。」「ここのみんなは、仲良くしたいって思ってるんだよ。だけどパレスチナでは90人も死んでて主に子供が殺されている。両国とも、もっと大人になってくれよ」「もう誰にも死んで欲しくないってみんなが思ってる。僕達の能力を使えば素晴らしい物が作り出せるのに、なんでそれを争いに使うんだ」「戦争を作り出しているのは馬鹿な政治家達だろう。この狂気が終わるように祈っている」。。。等のメッセージが22日に事態が終息するまで続いた。

これの1年前の2011年11月には、テルアビブのGDGから、中東の全てのGDGで平和へのメッセージビデオを送り合わないかという提案が出され、それらの動画をテルアビブGDGのミーティングの冒頭で毎回使うと話している。

例えば、こちらは Catania GTUG から Tel Aviv GTUG への平和のメッセージビデオ。



こちらは Damascus GTUG からのメッセージ。いつかハングアウトつなごうねと。



中東だけではなく、2012年11月のメーリングリストには「コンゴのゴマが大変みたいだけど GDG Goma のみんな大丈夫?」というメールが届いた。反乱兵が街を占拠し、市民や海外渡航者は国外に避難するとかしないとか。

M23 rebels close in on Goma

「実は僕、先週の金曜日までブリュッセルに行ってて、金曜日に故郷のゴマに帰ってきたと思ったらその日の夜には戦闘が始まったんだ。状況はよくないけど、GDG メンバーは全員無事。戦闘は激しく、全員自宅待機で街は誰も歩いてない。」

基本的には Android とか、HTML5 とか、そういう話をする開発者コミュニティなんだけれど、こういうやりとりが入ってくるたびに日本ってなんて平和なんだって思う。

国の間の理解を深め、国の間の対話にテクノロジーを役立たせるにはどうすればいいのか。技術者がその能力を発揮することで国の経済に貢献し、平和を作り、国民の意思を国家の政策に反映させるために役立てるには、どうすればいいのか。色々考えていければよいですね。。。

Disclaimer このブログは山崎富美の個人的なものです。ここで述べられていることは私の個人的な意見に基づくものであり、私の雇用者には一切の関係はありません。