2012年6月10日日曜日

Big Tent Mountain View-2

Big Tent Mountain View の続き。前編はこちら

パネル "Playing nice: the challenges of the online playground"。これも面白かった。



YouTube の Victoria Grand。YouTube には毎日大量の動画がアップされ、そしてたくさんの苦情も寄せられてくる。Victoria のチームはそれらに対してなるべく「表現の自由を守る」前提で、評価をしているという。できる限り、削除はしたくない。児童虐待、ポルノ、違法なコンテンツといった物は当然削除するので判断は簡単だが、中には表現をしたいという投稿者の気持ちとコミュニティを守るというバランスが難しい物もある。"Am I pretty or ugly?" みたいな物。小さな女の子が「私キレイ?」と聞く権利を奪うのか。でも、当然ひどいコメントもたくさんつけられていく。放置してよいのか。"Axe Body Spray" といってボディスプレーを口に入れて我慢大会をするような動画が多くアップされており、健康に悪いので削除してくれという声がたくさん挙げられてきた。自傷の傷跡を見せる動画もたくさんアップされている。多くの場合は「やるな」というメッセージだったり、中立的なスタンスでプロセスを見せ、自傷とは何なのかを説明するもの。YouTube にアップされている自傷動画のうち、自傷を提唱しているものは 7% にすぎないという調査結果が出ているという。「これは真実の声で、削除するべきではない」という人もいるし、「これを見るだけで自傷を誘発する」という人もいる。「タバコを吸っている人を見ただけでタバコを吸う人がいるので、タバコを吸っている人がいる動画をすべて削除すべき」という人までいる。でも、例えばシリアの抗議活動の動画の中にもちらっとタバコを吸っている人が写っていたりするわけで、タバコを吸っている人がいる動画をすべて削除するとなると大量動画の削除につながっていくが、それによって失われる物の影響も大きい。

テロリストがプロモーションやリクルーティングに自社サービスを使い始めたらどうするのか。性的なコンテンツはどうなのか。シリアやリビアからアップされてくる動画は生々しすぎるので見られるべきではないのか?ボディペイントは?YouTube では毎日こうしたたくさんの疑問と向き合っている。

Twitter の Del Harvey さん。Twitter はたった 140 文字しか使えないので、コンテキストを読むことが難しい。例えば「やあビッチ」で始まるツイートがあったとしよう。色々なケースがあって、単にひどいことを言う人なのか、仲がいい友だち同士のじゃれあいなのか、犬のモノマネをしているアカウントなのかはわからない。冗談じゃなく、子馬のロールプレイングをやっているアカウントとかも実在する。Twitter はプラットフォームなので、何を許可するのかしないのかを判断するというよりは、ユーザーが使いたいように使うものだ。一線を超えた人に対しては、だいたいコミュニティの人達が「一線を超えちゃってるよ」と注意することが多い。パロディアカウントも許されているのだけれど、「パロディアカウントなのはわかるけど、笑えない」というクレームもある。悪いことなのか、削除対象なのかは別問題。

また、削除するとより表面化するというケースもある。例えば自宅が写されて写真集に載ってしまうので削除してくれと訴訟を起こされたが、黙って掲載されていたら誰も気にしなかったのに、削除しようとして騒いだために、その家がより有名になってしまったという。

Aさんが「Bさんからひどいコメントが送られてきた」と問題化してきたときにどうするか。そもそもBさんのひどいコメントの前に、Aさんがもっとひどいコメントをしていたというケースもある。そもそもアカウント停止やコンテンツの削除に意味はあるのか。メールアドレスをどんどん作れば、Twitterアカウントはいくつでも作って同じ事を繰り返すことはできる。

Pew Research Center のリサーチャー Amanda Lenhart はいくつかの調査結果を公表。アメリカのティーネージャーの8割はソーシャルメディアを使っており、「ソーシャル空間はやさしい人が多いのか意地悪な人が多いのか」という質問に対しては69%が優しい人が多いと回答。ただし、88% が「ネット上でひどいことを言っている人を見たことがある」と言っている。88%は高い数値のように感じるけれど、同じ子供たちに「高校の廊下で酷いことや残酷なことをしている人を見たことがあるか」と問えば、おそらく同じような数値が出るだろう。なお、ここまではあくまでもそういう物を「見たことがある」という経験であって、「実際に自分がソーシャルメディアでひどいことをされた」という人は 15% しかいなかった。ソーシャルメディアでひどいことをされているのを見たら、助けるかについては多くの人が助けると言っている。ただし、ソーシャルメディア上ではコンテクストがわかりにくいので(冗談かもしれないし)相手との関係がわかる、近しい人であるほど助ける、という人が多い。人を助けると回答したのは80%。逆にソーシャルメディア上で自分が酷い言論に加担したことがある、と回答した人も20%いた。


Tomorrow’s world starts today: building a strong, connected community





Electronic Frontier Foundation (EFF) と Global Voices Online の Jillian York さん。デジタルライツと表現の自由を守ろうというアクティビストで、アラブの春より前からアラブ・中東に詳しかった。

アラブで起きたことはよく「リーダーのいない革命(leaderless revolution)」と称されるけれど、アメリカでの SOPA や PIPA に対する抗議、パキスタンで行われているインターネットフィルタリングに対する抗議、あるいは(他と比べて違法性は高いかもしれないけれど) Anonymous など、世界中で「リーダーのいないコミュニティ(leaderless community)」が社会にとってよいと思われる重要なことを推進し始めているのが現代のコミュニティの一つの特徴ではないか、と語る。

後に、このパネルの Q&A で出てきた議論が、この "leaderless revolution" について。政権を倒す時には活躍するけど、その目的が達成できた後になかなかうまく機能していないのではないかと。政権崩壊後の国づくりとか。エジプトの革命中には40人ぐらいの知り合いのブロガー達がオンラインでコミュニケーションを取りながらムーブメントを作っているのを見ていたJillian さんが、実際にカイロを訪れてそのブロガー達と会ってみると、「あいつは左だからとか」「そいつはナントカで駄目だ」と全然一枚岩ではない。オンラインとオフラインではだいぶ異なる、ということがあるのではないかと。ちなみに Nancy さんが Occupy をやっている人達に会いに行って話を聞いた時も、「きちんとオーガナイズするということがなくて、行き当たりばったり」なのが問題という話になったようだ。それを聞いた Tiffany さんは、じゃあそれらの失敗を元に、次に作られるサービスは leaderless revolution が起きてその目的を達成した後に、次のステップを構築するために国づくりとか計画づくりとかを国民みんなで作るためのサービスが必要なんじゃないの?と発言すると、実は既にそれができているらしい。その名も Citizen Compass。

Jillian さんはアラブ出身ではないけれど、アラブのコミュニティに溶け込んでいる。どうやったのか。最初はテクノロジーとは全く関係なく大学の勉強の為モロッコに行っており、その時の生活を友人や家族に伝えるため、ブログに書いた。そうしたら、モロッコの地元の人達からコンタクトを受け始め、Global Voices からも接触があり、GV に参加することになった。モロッコのブロガー達とのコミュニケーションがつながり、アラブ・ブロガー・カンファレンスに、アラブ人ではないのに招かれることになった。当時会ったブロガー達は有名人ではなかったけれど、お互い助け合い、どんどん著名ブロガーに育っていった。

Conrad Foundation の Nancy Conrad さんは高校生の起業家教育 (entrepreneurship education) を行なっている。高校生達が科学技術を使って、実際に使われるプロダクトを作るという物。イノベーション、アントレプレナーシップと教育が混ざったようなプログラム。高校生たちがビジネスプランを作り、マーケティング調査を行い、ビジュアル化を行う。たくさんの若者とメンターがオンラインで集まり、知らない人同士がチームを組んでプロダクトを作って、グローバルなコンテストで戦っていく。実際にプロダクトを作り、知的所有権も生徒達自身が保有する。生徒たちを中心に全てが動いており、大人が頭で考えるよりも早く生徒たちの手が動いていく。

Nancy さんがこのプログラムを始めたきっかけとなった、だんなさんのエピソード。だんなさんは失語症で読み書きができず、学校を退学になったけれど、才能を認めてくれた人がいて、奨学金を得てプリンストン大学に進み、読み書きができないのに航空技師になり、宇宙飛行士として4 回宇宙ミッションに参加して宇宙に行き、2回目の月面着陸ミッションで人類で 3 人目の月面歩行を実現した。Apollo 12 の宇宙飛行士 Charles “Pete” Conrad さんだ。これも全て、失語症でも退学になっても才能を認めて育ててくれた人がいたからで、だったら今度は自分たちが今の若者に対して何かやってあげようということでこのプログラムを始めた。


他の人の参考になるような失敗は?という質問への回答:「失敗はいっぱいあったわ。うちの旦那さん(宇宙飛行士)いわく、宇宙事業では、失敗は許されないけど、起業においては失敗は必須だよ。  In the space business, failure is not an option, but in the entrepreneurship, failure is mandatory.)」

映像作家の Tiffany Shlain さんが紹介していた動画 "A DECLARATION OF INTERDEPENDENCE"はこちら。



世界中の人に呼びかけて、送ってもらったクリップを編集して作った動画。世界中の人達が動画を送ってくれて、世界中の人がそれらを 6 週間で 65 ヶ国語に翻訳してくれた。これらの素材を使って、世界をよりよい場所にするために活動している NPO のプロモーション動画をカスタマイズして無料で制作すると宣言し、(携帯リサイクルNPOなら "Declare your interdependence by recycling your cell phone" 携帯をリサイクルして相互依存宣言しようとか、表現の自由のためのNPO なら "Declare your interdependence by freedom of speech" 表現の自由を守ることで、相互依存宣言しよう、などなど )この 2 ヶ月で 80 個分の NPO の動画が無料で作られ、提供されていったという。次のプロジェクトは「Brain Power」といって、どうやって脳を育てていくか、どうやってインターネットを育てていくかを考える。脳科学者にも参加してもらい、脳に対して何がどう作用するのか、特に5歳ぐらいまでの影響が強いので何をすべきで何をすべきでないのか(例えば時々はオフラインにもなりましょうとかね)を伝えるもの。今年の秋に完成予定とのこと。

教育関連の講演もありました。

基調講演は Teach for America の共同創業者兼CEO、Wendy Copp さん



The Internet as your blackboard: using technology to encourage lifelong learning パネル。
Moderator: Reihan Salam Panelists: Esther Wojcicki (Palo Alto High School), Lisa Babinet (Waldorf School), Ahrash Bissell (MITE)



そして全体をまとめてきた、最後のパネルが
On the horizon: what we need for a responsible and innovative web
Moderator: Reihan Salam Panelists: Urs Gasser (Berkman Center), Daniel Kent (Net Literacy), Vint Cerf (Google)


インターネットの有用性については、このカンファレンスでは語られていたけれど、多分このブログを読んでいる方はそれはよく知っていると思います。このカンファレンスで語られたもう一つの側面はインターネットの "harm" 害、もしくは痛み。インターネットが 100% ピュアで安全で安心な物ではありえないことを前提に、どうやってつきあっていけばいいのか、どうやって利用していけばいいのか、そしてどうやって次世代を担う子供達に伝えていけばいいのか。常識で見抜ける物もある。ITリテラシーを磨く以前に、クリティカルシンキングを教えなければいけない。なぜなら、誤情報が溢れているのはインターネットだけではなく、テレビにも映画にも学校の友だちや親からの情報にもありえる。間違った情報を伝えられた時、きちんと考え、対処できる人を増やしていかなければいけない。

教育のパネルでは、大人のリテラシーについても語られた。教師や親が、子供のリテラシーについていけていない。「ネットでは嘘を嘘と見抜く力が必要だ。だけど、今の大人はそんなことを教えてもらったことはない。それでもそれを子供達に教えなければいけない難しい立場にある」。

嘘や誤情報が出されるのは、悪意のせいだけではない。間違えないと覚えない・わからないという意味では、間違える権利さえあるのではないか。

匿名の言論だと責任ある発言が行われないので、実名主義にすべき、かつ良質な言論をする人に対するレピュテーションシステムを作るべきという話も出た。しかし、こうした物を作るエンジニアは、「どう利用されるか」と共に「どう悪用されるか」も常に考えなければならない

この、「エンジニアはどう悪用されるかも考えてサービスを作らなければいけない」という考え方は他の議論でも出てきている。ネットを使うユーザーがみんな詳しいわけではなく、さりとてそこに対するよいツールが提供されているわけではない。各サービス全部違うパスワードを使え、かつそれらのパスワードをすべて700個ぐらい暗記しろとか無茶なことを言っていないで、もっとよいツールを開発すべき。あと、エンジニアがいる限りバグはなくならないけれど、エンジニアが責任あるエンジニアリングをすることはとても重要だと思う。

インターネットは教育をよくしたのか、悪くしたのか。昔は何かを調べるのに膨大な労力がかかったのが、今ではネットですぐにわかる。明らかによくなったという人も多い。ただし、オフラインで調べていたときは深く調べていたのがネットだと簡単に情報が見つかるので深掘りしない。キッシンジャーさんは、Vint Cerf とランチをしたとき、開口一番「僕インターネット嫌いなんだよね」と言ってきたそうだ。ランチの始め方としてはどうかと思うけど、理由を聞いてみると「インターネットは、少し見ただけでわかった気になってしまうから」キッシンジャーさんは700ページぐらいの書籍を書く人で、全部読んで理解して欲しいと考えている人なので、気に食わないらしい。ただ、Google News は「みんなが何に興味があるのかわかるので気に入っている」とのこと。

ところで、このカンファレンスの基調講演は2つあって、2つとも女性がスピーカー(うち一人は14歳)。唯一の Fireside Chat は女性スピーカー。パネルが4つあって、2つはパネリストが3人とも女性、一つは2人女性と1人が男性、一つは3人とも女性。つまり圧倒的に女性スピーカーが多かった。しかも非常に面白いスピーカーたちだったのが印象的でした。

Disclaimer このブログは山崎富美の個人的なものです。ここで述べられていることは私の個人的な意見に基づくものであり、私の雇用者には一切の関係はありません。