2012年1月4日水曜日

「科学者に言いたいこと、ないですか?」の話

宮台真司さんいわく、これまでの日本は〈任せて文句垂れる社会〉だった。これからの日本は自ら〈引き受けて考える社会〉へ。更に〈空気に縛られる社会〉から〈知識を尊重する社会〉へ、と。

未来設計会議[after 3.11] 科学者に言いたいこと、ないですか?」の早野さんのお話はまさにその通りだなあと思いました。Business Media 誠記事:「早野黙れ」と言われたけど……科学者は原発事故にどう向き合うべきか

政治的な駆け引きによる混乱や、耳目を集めるための極論も幅を利かせる中、科学者の本分は「データの出典を示して、解析して、公開して、議論することである」という思いのもと、事故直後から放射線や原発に関する情報を発信し続けているのが東京大学大学院理学系研究科の早野龍五教授(@hayano)だ。
事故前の早野さんは、科学的な考え方や原子核物理、放射線測定の知識についてはある程度のレベルにあったけれど、原子炉についてはほとんど知らなかったそうです。ただ、少しずつ出てくるデータを見ていると、非常にわかりにくい「福島第一原発からファックスで送られたものをコピーしてスキャンしたPDFファイル」がアップされてきたので、データの見える化をしようと。

元のデータを「見た」人は、たくさんいると思いますが、データを「読んだ」人は恐らくあまりいないでしょう。こちらが早野さんが福島第一原子力発電所正門付近のガンマ線量測定値、東電公表データからグラフにした物で、9万人が見たそうです。これなら誰でもわかる。


こちらは「青森から静岡までの放射線モニタの秘学グラフ」で、10万人が見ました。


それらの活動を見て、他の人達もどんどんデータをグラフ化し、公開し始めました。こちらは理化学研究所の板橋健太さんが作った「茨城県東部 放射線モニターデータ解析」。


「お上がデータを出さないから」と文句を垂れるのではなく、お上に対してデータが出るようにみんなで声を上げてきた。「お上のデータがPDFで読めないから」と文句を垂れるのではなく、早野さんみたいな方々が、データをグラフ化して、みんなが読めるようにしてくれた。「僕は原子炉の専門家じゃないから。専門家がちゃんとやってよ」と文句を垂れるのではなく、専門家じゃないけれど自ら学び、情報や得た知識を共有しあい、みんなで考え、行動した。先日書いた Joi の Safecastチームもそうだけど、原発の専門家ではない人達が、みんなで学び、データや情報を共有し、前に進んできた。

任せて文句垂れる社会〉から、〈引き受けて考える社会〉へ。〈空気に縛られる社会〉から〈知識を尊重する社会〉へ。

早野さんは内部被ばくについて詳しかったわけではないけれど、内部被ばくの状況について気になったので、給食センターの食事を調べる「給食一食まるごとセシウム検査」を森裕子文科副大臣に提案し、予算が付くことになって国のプロジェクトになったそうです。「こんな調査やって、高い値が出たらどうするんだ、空気読め」と思う人もいるでしょうが、そうやって段ボール箱に頭を突っ込んで嵐が過ぎ去るのを待つのではなく、きちんとデータをとって、検証し、対策を取っていく。

以前からアメリカの Government 2.0 についてブログを書いてきていますが、私は日本の Government 2.0 はもう始まっていると思っています。日本では、アメリカのように政府が「オープンガバメントやるよー」と声をかけてくれることを期待して待ってもしょうがないので、政府がデータを出さないなら出させる、出てきたデータを科学者や市民たちがどんどん検証していく。。。という「もぎ取り式」で前に進んでいる。というか、そうしないと前に進まないのかもしれない。

というわけで「未来設計会議[after 3.11] 科学者に言いたいこと、ないですか?」の動画とスライドを貼っておきます。



●スライド


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2012/10/14追記:宮台さんがこういうアピール文を書いておられました。「グリーンアクティブ記者会見(議員会館)でのアピール文

日本はいまだに民主主義の社会ではない。
民主主義を獲得するには政治文化の以下のような改革が必要だ。

〈任せて文句たれる社会〉から〈引き受けて考える社会〉へ
〈空気に縛られる社会〉 から 〈知識を尊重する社会〉へ

日本は非民主主義的な政治文化を背景に官僚天国になった。
官僚天国を抑止できない政治文化が日本をでたらめにした。 

他の先進国に比べて公務員数が少ない日本。
他の先進国のどこより福祉予算が少ない日本。 

なのに先進国のどこより政府の借金が多い日本。
この不思議な事態をいったい何がもたらしているのか。 

他国で常識的な「政策的市場」を形成せず、未だ「補助金行政」を頼るからだ。
言い換えれば国会の審議対象とならない「特別会計」のムダ遣いがあるからだ。 

これを変えるには「補助金行政」から「政策的市場」への転換が必要だ。
コスト動機の働かない「補助金行政」をやめるための転換を分り易い言葉で言う。 

〈行政にへつらって褒美を貰う社会〉から〈儲けるために善いことをする社会〉へ 

これが実現すれば単なる「べき論」は要らなくなる。
淘汰による選別が、自動的に働くようになるからである。 

〈任せて文句垂れる〉作法が支配する地域や企業が淘汰されるからだ。
〈空気に縛られる〉作法が支配する地域や企業が淘汰されるからだ。 

「政策的市場」が機能する〈儲けるために善いことをする社会〉。
政治と行政はそのためのルールメイカーとルール管理者になる。 

だがこのルールメイキングはしっかりチェックされないと不公正なものになる。
既得権益者が自らに有利なルールを、ロビイングや利益誘導で実現するからだ。 

そのためには、議会が既得権益者の手打ちの場所であってはならない。
そこで欧州で編み出されたのが、住民投票とワークショップの組み合わせである。 

住民投票は、巷間語られるような世論調査による政治的決定ではない。
一年後なら一年後の投票に向けたワークショップ反復による民度上昇が目標だ。 

ワークショップでは「本当のこと」を明らかにするために様々な手法が取られる。
例えば「科学の民主化」を中核とする方法(コンセンサス会議)が重要になる。 

これは官僚お手盛りの有識者会議の如き「専門家による決定」を許さない工夫だ。
専門家の独占知識を市民の共有財産とした上、専門家を廃し市民が決める制度だ。 

グリーンアクティブは専門家的知識を市民の共有財産とするプラットフォームだ。
このプラットフォームの上で各市民や各団体が「何が事実か」を共有するのだ。 

その意味でこれは狭い価値を共有する政治党派(パーティ)とは全く異なる。
そうでなく、事実を共有した上で各自が価値を発信して合意形成を試みるのだ。 

グリーンアクティブは「グリーン」に関心を寄せる者や集団が誰でも参加できる。
「グリーン」について「何が本当のことか」を共有したい者たちの集まりである。 

これに参加した上で「グリーン」が本当に守るべき価値なのかを判断してもらう。
あるいは「グリーン」のためには何が一番大切かという価値を発信してもらう。 

こうした民度上昇によって、議会は単なる手打ちの場所であり続けられなくなる。
社会は〈引き受けて考える〉市民による〈知識を尊重する〉知識社会に変化する。 

日本が知識社会に生まれ変われば、「グリーン」に限らず日本社会は合理性を取り戻す。
官界や財界の既得権益のせいで「一億総ゆでがえる」状態となるのを抑止できるだろう。


Disclaimerこのブログは山崎富美の個人的なものです。ここで述べられていることは私の個人的な意見に基づくものであり、私の雇用者には一切の関係はありません。