2012年1月26日木曜日

"費やした55億円、水の泡に 特許庁がシステム開発中断"って一体何だったのか、報告書を読んでみた



費やした55億円、水の泡に 特許庁がシステム開発中断
技術検証報告書 ~フォローアップ結果とりまとめ~ 平 成 24年 1月 23日

どっちを読んでも全然わからん。というわけで、賀沢さんのGoogle+をヒントに平成22年8月20日の調査報告書を読んでみた。めっちゃ読みにくいので、ザクザク切りながらまとめてみた。

●背景●

平成2年、特許庁は、特許・実用新案の手続にペーパーレスシステムを導入。開発後のシステムの著作権は、利用主体である特許庁ではなく、開発事業者であるNTTデータが所有することとされ、NTTデータが特許庁に対してシステムを供用し、保守・運用サービスを提供するという契約。これにより、初期コストをNTTデータへの毎年のシステム使用料の支払いという形で平準化できたが、この契約の下では、ハードとソフトを分離して調達したり、運用開始後のメンテやシステムの追加改造等の調達で、NTTデータ以外の事業者が参加する競争入札を導入することは困難で、コストが高止まり。また、システムの構造が複雑化し、追加改造や運用・管理とそれに伴う知識・ノウハウが長期に渡りNTTデータに独占されたため(著作権をNTTデータが所有していたせい)、利用主体である特許庁自らが主体的に管理し、独立的にシステム開発を進めることが困難になっていた。

●入札、落札と設計開始●

そんな折に政府全体で各府省庁がレガシーシステムから脱却し、 新たに効率的なシステムを導入することに。→特許庁も平成18年7月に「最適化計画」の運営基盤システムの設計・開発業者の入札公告をすることになった。

入札は下記の4つのパートにわけられ、1&2、3、4をそれぞれ独立して調達することになり、1&2の部分を東芝ソリューション(TSOL)が99億2500万円で落札。3はNTTデータが落札。

1) 共通して使用される部分のソフトウェア(基盤部分) の設計・開発
2) 個別業務を実現するためのソフトウェア(個別業務部分) の設計
3) 個別業務部分の開発
4) ハードウェアの導入

(追記:"審査の結果、TSOLが、技術点で日立、NTTデータを下回ったものの、価格点では上記2社を上回り、低価格調査を経て予定価格の6割以下の価格で落札した。"と書いてある。)

TSOLは平成18年に60人体制で設計を開始したが、翌年初めには遅延が始まったため、順次増員。平成19年3月には200人、5月には450人体制に膨れ上がる。増員しても作業効率の向上には繋がらなかったのだが、TSOLは更に大幅な人員の増強で工程の遅れに対処しようとし、平成20年11月以降には1,300人もの体制を整えたが、このような急激な増員は、かえって設計指示の不徹底や実施手順の不統一を招き、設計成果物の 「品質の不均一」 が生じることとなった。こうして混乱が続き、スケジュール遅延のみならず、設計成果物の品質自体も使用に耐えないものとなり、プロジェクトの完遂そのものに大きな支障が生じると懸念されたことから、特許庁は平成20年度末から中間成果物の提出、遅延の原因分析、東芝本社による進捗状況の管理などの対策を講じる。しかしその後の成果物の品質も十分ではなく、内部設計書の納入期限は平成22年2月に、システムの稼働時期は平成26年1月に再延長。

。。。と言っているうちに、次々と不祥事が発覚していった。

平成21年11月 "運営基盤システムの開発を行う企業の社員と特許庁職員が飲食をともにしている"とのタレコミ
平成22年3月 "上記入札前に特許庁職員から運営基盤システムの開発を行う企業の社員への情報漏洩があったとの一部報道"
平成22年6月 "特許庁審判部審判官のA職員がNTTデータ社員から、職務に関しタクシー乗車の利益の提供を 受けたとの容疑により収賄罪で警視庁に逮捕"


これらの報道を受けて、事実解明チームが調査を開始。報告によると、"同庁内部の関係資料や事業者における同庁職員との飲食や情報交換等の記録には既に廃棄等の処分をされたものが多く、事業者から提供された飲食店の領収書の 写し又はタクシー券の写し、飲食の案内を示す事業者から同庁職員への電子メールの写し等は残存するも完全なものではないことなどから、事業者によるタクシー運賃の支払や飲食等の提供の有無,事業者に対する内部情報の提供等の有無につき徹底した調査解明を行うには証拠的な限界が存在した 。"


A職員は、平成16年にTSOLとNTTデータの協業応札となった業務用パソコンの調達に関与し、調達案件やシステム開発について、必要な情報をNTTデータ社員に提供する見返りとして、飲食接待を受け帰宅のためのタクシー運賃の支払いを受けるようになっていった。今回の新システム(最適化計画)には直接関わらなかったが、特許庁の新システムへの移行の目的の一つがNTTデータからの脱却だったため、情報を取りにくくなっていたNTTデータは、情報収集のためA職員への飲食接待・タクシー運賃の供与を継続。A職員へのタクシー乗車の利益の提供は71件で、合計金額は272万3700円。飲食の利益の提供は15件で合計金額は16万5080円。見返りにA職員はNTTデータに特許庁内部の資料を供与。

B職員は最適化のアーキテクチャの検討、最適化計画に必要な人員の担保等、同計画の立ち上げに中心的に関与した人物。B職員へのタクシー乗車の利益の提供は27件で、合計金額は18万7830円。飲食の利益の提供は33件で合計金額は19万9476円。平成17年12月末頃、B職員はTSOL社員に対し、18年7月に入札公告を予定していた運営基盤システムの設計・開発等の入札仕様書案をリークしていた。

C職員は最適化計画の草稿、最適化のシステムアーキテクチャの設計をした人物。C職員へのタクシー乗車の利益の提供は22件で、合計金額は41万1850円。飲食の利益の提供は21件で合計金額は10万6986円。平成18年4-5月頃に、TSOL社員に7月の入札公告の際に配布される予定の提案書の雛形を提供し、提案書作成の参考となったとみられる。

。。。とある。

つまり、特許庁の職員が色々リークしたおかげで受注できた会社が、設計を開始したが実力不足のために遅延と増員(設計段階で60人体制から1,300人体制まで膨れ上がり)でぐちゃぐちゃになり、不祥事も次々発覚して、使った55億円を「水の泡」にして開発を中断した、という経緯が「開発の遅れは、主に設計の不備が原因」という一言でまとめられてしまったってこと?(追記:コメントで Mukai さんからご指摘頂いている通り、A/B/Cは選定時の評価には加わっていないので、受注プロセスとは関係ないです。また、選定時の評価の時点で技術点が高くないことは明確だったので、ご指摘いただいた"技術点と価格のバランスのとり方とか遂行能力の評価とかが甘かったのでは"というのは全くその通りだと思います。ありがとうございます!)

追記:ちなみにタクシー代や飲食費の供与には関わっていないものの、"運営基盤システム設計・開発のプロジェクト管理支援業者は、平成18年12月に競争入札を行い契約先として,アクセンチュアに決定した。主な作業は、プロジェクトの実施計画や標準管理要領を作成し,工程の進捗管理を行うことである。また、プロジェクトにおける課題管理や成果物の品質管理を行い,円滑なプロジェクト運営に努めることである"とある。

追記:日経の記事に上記アクセンチュアの受注金額も掲載されていました。

プロジェクトが始まると、現行の業務やシステムを理解した職員と技術者が足りない問題が表面化、進行が滞った。特許庁はアクセンチュアと30億円超の契約を結び、同社にプロジェクト管理支援を委託していたが、それでも遅れは防げなかった。

追記:コメントでChallenge-1さんから教えていただいたTBSの記事がまたしびれる。
 問題の発端はおととし3月。「NEWS23クロス」の調査報道で、東芝ソリューションが公表されていないはずの入札資料を事前に入手していたことが分かりました。社内のメールでは、「夢の中で手に入れた」と隠語で表現されていましたが、関係者に取材すると・・・

 「出元を言いたくない。でも、関係者はどこから手に入れたかはもう明らか。要は、特許庁さんから(手に入れた)」(プロジェクト関係者)
追記:このプロジェクトに「内閣官房GPMO(ガバメントプログラムマネジメントオフィス)補佐官」の肩書きで2009年まで民間から参加した萩本順三さんが、失敗の要因を分析したのが、PublicKeyの記事になっていました。これはぜひ原文を読んでください。
特許庁の基幹システムはなぜ失敗したのか。元内閣官房GPMO補佐官、萩本順三氏の述懐

いわく、「特許庁の情報部門に幾度も中止を迫った」が止められなかった。また、真の原因はプロジェクトマネジメント能力云々ではなく、「発注側も開発側も、技術を特許庁の業務にどう活かすかという結果イメージができないまま、技術を盲信していた」「業務フローをどう活用するかというイメージがなく、ただただ言われた業務を書きうつすだけの人が千名近くおり、それでは無用な産物を作り出すことになる」「業務設計におけるプロジェクト管理者は特許庁側に存在しており、そこが破綻していた。一方的に開発ベンダーの責任として押し付けているかぎり解決はしない。こういう業務設計も含んだプロジェクトのマネジメントを発注者、受注者双方で学ぶ必要がある。

追記:「そんな高いタクシー代ってどこに住んでたんだろう」的コメントをいただきましたが、全て調査報告書の別表に掲載されているので、是非元の調査報告書を読んでみてください。こういう感じ↓


追記:「特許庁情報システムに関する技術検証委員会」というのがあって、検証されているようなのですが、これの議事録の空っぽ加減がまたすごい。我が目を疑うレベル。





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