2011年11月30日水曜日

イスラエルの話1

今回イスラエルに行った主な目的は Google Developer Day Tel Aviv ですが、ほかにも色々目的がありました。そのうちの1つがイスラエルのスタートアップシーンから学ぶこと。"Startup Nation" と呼ばれるほど、スタートアップが多いイスラエル。インキュベーションセンターを訪れたりスタートアップとミーティングをしたり、大学の講座を訪れたり、他のテクノロジー系イベントに参加したりしてきました。

==Mobile Mondayと、日本とイスラエル==

モバイル系ギーク/スタートアップが集まるイベントの1つ、Mobile Monday Tel Aviv に参加した時に、興味深い発言をしている人がいました。

201111MobileMondayTelAviv

それは、「日本とイスラエルって真逆だよね」というもの。そのココロは、日本は安全な国、イスラエルは敵に囲まれて安全でない国。日本人は大きな会社で働きたがり、それが安定だと思っており、イスラエル人は優秀な人は大きな会社で働くのは安定ではない、自分でスタートアップを始めた方がよいと考えている。日本人はリスクを取りたがらないが、イスラエル人は野望を持ってリスクを取りたがる。イスラエル人のリスクテーキング気質は、GDDの立ち話でもMobile Mondayでも大学のMBAの先生との間でも出た話で、イスラエルでは実力を持っていると自負している人は会社に勤めようとは思わず、自分の力でスタートアップを始めた方が成功に近いと考えているため、MBAの先生は生徒がみんながスタートアップを始めたがるので、スタートアップの適性がなさそうな人を止めないといけない場合もある程だと仰っていました。また、名だたる有名企業でもイスラエルで優秀なエンジニアを雇うのは難しくなりつつあるそうです。実際、ある人はマイクロソフトを辞めて自分でスタートアップを始め、最初は一人でやっていたのを現在は7人まで増やして拡張中。もちろん マイクロソフト時代より現在の収入は減っているものの、あくまで「今は収入が下がったけど、マイクロソフトで働き続けるのとは比べ物にならないほど儲ける」と野心的。リスクテーキングな性質はあらゆる面で影響しており、例えば 新薬の被験者をアメリカで1,000人探そうとするととても苦労するのに対して、イスラエルは人口たった710万人にも関わらず比較的容易に被験者が見つかるといいます。新しい物をとても好む傾向があるとか。

日本(人口1.2億人)は内需がそこそこ大きいので日本語で日本市場を相手にサービスを作る場合が多い。対するイスラエルは非常に小さな国(人口710万人)なので、内需を考えてサービスを作る人は少ない。Mobile Mondayでたくさんの開発者に会いましたが、殆どの人が英語でグローバルマーケットをターゲットとしたサービスを作っており、言語だけではなく物理的な物が必要になるサービス(280個の物理センサーを立てた新型天気予報アプリ)を作った開発者もまずはアメリカのみでのローンチを予定しており、徐々にエリアを拡大すると語っていました。韓国でディベロッパーイベントをやったときも似たところがありましたが、イスラエルの方が明確ですね。

なぜこんなにスタートアップ精神が旺盛でリスクテーキングな人が多いのかを聞いてみたところ、「国が敵に囲まれているので、イノベーションとクリエイティビティがないと生き残れない」という危機感は多くの人が感じているそうです。それによってどんどんスタートアップが立ち上がり、小さな国なのに世界二位のスタートアップ数、そしてハイテク産業を作り上げていく。

とはいえ、AppleもMSもAmazonもGoogleもみんなイスラエル出身ではなく、アメリカ発じゃないかと思われる方もおられるでしょう。イスラエルはどちらかというと技術を開発し、海外企業に売るに留まる(多くの場合はアメリカの会社)。その技術をプロダクトとして世界に広めるのはアメリカの方が得意ということのようです。

ファイヤーウォールやフラッシュメモリが生まれたのはイスラエル。内視鏡も、実はイスラエルでミサイルの技術(機械を小さくするとかトラッキングをするとか)を応用して開発されたものだそうです。ほかに、皆さんIM(インスタントメッセンジャー)をいつも使っておられると思いますが昔懐かしICQが生まれたのもイスラエル。Microsoft の Kinect の元の技術もイスラエルから。Intelも企業としてはアメリカの会社だけれど、Pentium MやCore Duo、Core 2 Duoの設計・開発はイスラエルのエンジニアによるものだとか。

ただ、前述の通り大企業に育てていくとかプロダクトとして育てていくところがない、というのが現在問題になっており、大企業に育てる力、エグジットモデルをもっと作ることを重要視し始めており、「ロールモデルはビルゲイツ」という人が増えているとのこと。(ビルゲイツなのか。。。)

==イスラエルの教育==

イスラエルのスタートアップでは .Net を使っている人が多いといいます。ほうほう、それはなぜ?と問うと、軍が使っていたかららしい。では軍ではどうやってどのテクノロジーを使うのかを決めているのか。それは往々にして軍に入る前にテクノロジーの道を選んだ若者達や軍に持ち込まれたテクノロジーで決められているらしい。もちろん決定権はもう少し年輩の人達にあるとはいえ、高校を出て軍に入った子達にそんな選定ができるものなのか?

イスラエルの学校制度では、14歳で専攻を決め、高校で専門的な勉強を始めるそうです。そして得意な分野でそのまま軍隊でも活躍することになるので、我々がイスラエルで会ったような人々(スタートアップやテクノロジーイベントに来るような人)は殆ど、軍ではテクノロジー系を担当していたそうです。ちなみに徴兵前に頭角を現しているような若者はヘッドハントされるらしい。そして軍のテクノロジー系の仕事をしていた人達が20代前半で兵役を終え、大学を経て、マイクロソフトとかGoogleとかに就職したり、あるいはテクノロジー系のスタートアップをやる。よって、高校〜軍〜大学〜就職〜スタートアップ。。。などで使うテクノロジーが脈々と受け継がれているらしい。その中でマイクロソフトがうまく売りこめているということなのでしょう。

==インキュベーション施設 Junction ==

現在、テルアビブではインキュベーションがどんどん開設されているそうです。私も滞在中に、Junction というテルアビブのインキュベーション施設に行ってきました。

JunctionJunction


Junctionを開設したモチベーションの背景として語られたのが、イスラエルにはアーリーステージのスタートアップを支援するベンチャーキャピタルやエンジェルが少ないということ(ただし比較対象はあくまでシリコンバレーで、日本よりは多いと思います)。また、シードステージの金額がシリコンバレーと比べて1/4ぐらい。だからベンチャーキャピタリストとしては 少ない投資で高いリターンが期待できる 非常に美味しい市場なのですが、イスラエルのスタートアップにとってはあまりうまくない。Junctionを立ち上げた理由と、自らに課したKPIは「イスラエルに素晴らしいスタートアップを増やすこと」。繰り返し言っていたのが、“Define KPI and behavior will be defined”「KPIを決めれば人の行動はそれに従うものだ」ということ。

Junction の運営方針は極めてシンプル。 スタートアップが得ることができのは、座席(一社3つまで)、インターネット接続とコーヒーのみ。Junctionに入居できるのは 3 ヶ月まで、そして入居する条件には必ずJunctionで仕事をしなければならないという条項があります。「ここにいるということは、仕事をするってことですよ。エンジニアにとって仕事をするってことはコードを書くってこと。外で遊ぶのではなく、ここにずっといて、開発し続ける。スタートアップは、コードを書くことに集中すべきなんです。」そしてそこにいる3ヶ月間のあいだに、Junction運営側がハンズオンのオフィスアワーや講演、デザインやコーディングなど色々な企画を行い、それらに参加できる。もちろん卒業生も参加できる。Junction側は、あらゆる優秀な人達をここに連れてくる。うちのHTML5のDeveloper advocateのIdoも招かれて、ここでHTML5についての講演をして、質問に答えたりしてあげたことがあるそうです。

Junctionの運営サイドはスタートアップを審査しない、投資もしない、リターンを取らない。インキュベーターは入居したところに小さく投資しておいて、高いリターンを得ようとするのが普通です。Junctionはそれを「やらない」と決めています。「イスラエルのスタートアップをもっと成功させること」がKPIと定めた。その入居者達をJunction側がセレクトして投資をしてしまうと、投資を受けられなかったスタートアップを切り捨てざるを得なくなる。Junctionが作りたいのは、開発者、スタートアップ、デザイナー、そして投資家などJunction側が選りすぐりの人達を連れて来てTechtalkをしてもらったり、イベントをしてもらったり、教え合ってもらったり、コミュニケーションをしてもらったりして人脈を作ってもらうこと。「StanfordとかHarvardとか、アメリカの大学には歴史があって、卒業生のalumniネットワークがある。イスラエル人は離散していたので、そのネットワークがないんですよ。だから我々は、ここでそれを作るんです。」実際、Junctionに入居したスタートアップの1つはFacebookで500万ユーザーぐらいがつくまでのアプリを作って成功しつつあった時にFacebookからbanされてしまい、行く末真っ暗になってしまったそうなのですが、Facebookの中の人を知っている別の人がとりなしてくれて復活させたというような事例もあるそうです。とにかく、みんなで成功できるように、お互い助けられるコミュニティ、人脈を作る。

Junctionはまだ始められたばかりですが、既に5社がfundraisingに成功しているそうです。ちなみに11月末から、いくつかの投資家が合同投資をし、そこに投資をする(つまり投資判断をJunction側は行わず、外部に委ねる)シンジケーションモデルを実験してみるとのこと。

なぜイスラエルの人たちはそんなに「お互い、助けあおう」という気持ちが強いのかと聞いてみたら、「シオニズムかなあ」と言われました。シオニズム運動。。。世界史でやりましたね。「シオンの丘に帰ろう」。そういうところから結束力がきているのかー。

ちなみにエンジニアには美味しいコーヒーがとても重要だそうです。"Good coffee produces good code!"だそうです。ちぃ覚えた ;)

Junction


そうそう、イスラエルの Geekcon の動画もご紹介しておきましょう。"Nothing that's usable, just creative" (使える物は何一つない、ただクリエイティブなだけ)と書かれてますが、超楽しそう〜!


なお、上記動画には Yossi Vardi さんにそっくりな方が出てきますが、なんとYossiの弟さんだそうです。ちなみに Yossi はイスラエルで一番有名な投資家で、ICQを作った Mirabilis の founding investor(AOLが4億ドルで買収)を始め、IPO した Answers.com や Scopus や Tucows、Microsoft に買収された Gteko、Sierra Wireless に買収された Airlink、Cisco に買収された Tivella、Yahoo に買収された Foxytunes、ebay に買収された The Gift Project など、数多くのベンチャー投資を行っています。

続きはイスラエルの話2へ。

Disclaimerこのブログは山崎富美の個人的なものです。ここで述べられていることは私の個人的な意見に基づくものであり、私の雇用者には一切の関係はありません。