2010年3月31日水曜日

ケンコーコムの話


医薬品のネット販売が禁止される改正薬事法が成立し、2009年6月1日以降日本では風邪薬や水虫の薬、胃腸薬、漢方薬、妊娠検査薬といった医薬品のネット販売が一律に禁止されました。理由は「ネット販売は危険だから」。

この法律改正が行われるに先だち、7回にわたる検討会が開かれたが、両派の意見が平行線をたどるまま。ところが突然、厚生労働省から「省令案」なるものが飛び出し、その省令案に対してパブコメが募集されました。(この時「今までの検討会は一体何だったんですか!?」と三木谷さんが怒りの声を上げている。世に言う「ミキティ無双」である。)

この辺の経緯は、CNetの別井さんが丁寧に追っています。
改正薬事法の完全施行は土壇場で厚労省がどんでん返し--委員の不信感も募り混沌
医薬品のネット販売規制で世論巻き起こるか--ターニングポイントの検討会議事録

パブコメに与えられた期間はたった7日間でしたが、9,824件ものパブコメが集まり、賛成はわずか42件(0.5%)、規制をするべきでないという意見が8,333件(85%)となりました。

ところがこのパブコメの結果など全く関係なく、改正薬事法は施行され、医薬品のネット販売は禁止、コンビニでの販売が許可になりました。

この日本の「パブコメ聞くだけ聞いて結果は無視して法律を決めるやり方」については私も頭に来ていたので、以前Japan Timesに記事を掲載してもらいました。

そしてケンコーコムが、この改正薬事法に対して訴訟を起こしています。論点は、「国会で定められた改正薬事法を、厚生労働省が行政の権限を逸脱して解釈し、医薬品ネット販売事業者が営業するすべを不当に絶ってしまった」こと。日本は法治国家であるはずなのに、突然、厚生労働省がルールをもってきて「あなた達はネット販売できなくなりました」という話を通してしまった。

三権分立って何でしたっけ?「立法」は国会議員が構成する国会で法律を作るってことですよね。「行政」はその法律に従って、省庁が執行するんですよね。そして「司法」は裁判所が法律を適用するんですよね。この三権が分立し、相互に監視しあうことで権力の集中・濫用を防止し、国民の政治的自由を保障するはずでしたよね。違いましたっけ?ま、ここがおかしくなっているから「日本は官僚が全てを支配している国」とか言われちゃうわけですけど。

ケンコーコムの話に戻りましょう。

医薬品には、ご存知の通り副作用のリスクがあります。その副作用リスクを低減するために、改正薬事法では第36条の6で「医薬品の販売の際に専門家が、その適正な使用のために必要な情報を提供」することを求めています。

では、誰がどうやって販売すればきちんと情報提供ができるのか。ドラッグストアでバイトが単にレジを打つだけで、ほとんど会話も交わさないような店頭でしょうか。お客さんがホームページ上の副作用情報をじっくり見た上で、メールや電話で薬剤師と相談しながら医薬品を購入するネット販売でしょうか。ちなみにもちろん劇薬とかはね、ドラッグストアでもインターネットでも販売すべきじゃないですよ。今回の改正にかかってるのは、風邪薬とか漢方薬とかです。

さてこの裁判ですが、昨日一審判決が出て、ケンコーコムの訴えは棄却されています。ブログに後藤さんが記事を掲載しています:一審敗訴を受けて
今回の判決で最も納得がいかないのは、「対面販売とネット販売を比べると情報提供の難易、実現可能性に有意な差がある」と断じていることです。
その理由として、例えば、
1. 対面販売では、購入者の年齢、性別、体格、身体上の特徴、顔色、表情、行動、態度やしぐさ、声質や口調を見聞きできるのに対し、インターネット販売ではそれらが困難である、あるいは購入者の申し出の場合は自己申告だからその申告内容の真偽の確認が著しく困難である。
2. 対面販売では、有資格者は名札で表示されているので確認できるが、インターネット販売では応対の相手が本当に有資格者であるか確認できない。
3. インターネット上で、禁忌事項に関するチェックボックスを設けたところで、それを正しく理解しているかわからない。
4. 対面販売で例え、実際の使用者が購入者以外のものであっても、対面販売であれば、購入者から情報をしっかり聞き取ることができるが、インターネット販売では購入者の自己申告に基づくしかないので、虚偽の申告を見抜けない。

実際のドラッグストアではこのような状況を実現しているでしょうか?
僕は「ポイントカードを持っていますか?」と言われた経験しかありません。
一方で、インターネット上では、ペテン師がうそつきに販売していることを想定しています。
そして後藤さんは「この件は単に薬だけにとどまりません。」とTweetしています。

以前ネットビジネスイノベーション政策フォーラムというシンポジウムで、鈴木寛さんが「我々はネット教育に失敗した」「我々ネットコミュニティは敗北した」「医療関係の人たちはちゃんと政治にアプローチして、理解を得て、民主党のマニフェストにも医療政策は多く、予算編成でも診療報酬は増やされている。ネットコミュニティも理解が得られるよう頑張って発言力を高めるべき」という話をされていました。

ネットは悪い。ネットは危ない。IT企業家は悪いやつ。みたいなことを多くの人は思ってないけど、思ってないけど、思っている人がいるのも事実。でも逆に、政治家は悪い人。政治家は私利私欲ばっか。みたいなことを多くの人は思ってないけど、思ってないけど、思っている人がいるのも事実。でもITは成長の源泉だからリスペクトするべきだし、政治家はこの国をよくするために頑張っているんだからリスペクトするべき。そこで戦ってる場合じゃない。


ところでこの法律改正で、ケンコーコムは「6月は前月と較べて医薬品売上が62%も減少」し、「1ヶ月間で2,300人のお客さまに販売のお断り」をしなければならず、「年間で5億円近い販売が失われる」そうです。(ソースは後藤さんのブログ

というわけでシンガポール事業開始。こうやって日本から新しい事業が流出していって本当にいいのですか?これって本来「立法」の人たちがちゃんとしなきゃいけない問題ですよね?もちろん立法権がないのに越権行為を行った「行政」の問題でもあるわけですが。そして「司法」には二審以降で期待するわけですが。

ちなみに法の抜け穴を利用したビジネスは登場しているそうです。対面でお買い物しにいってあげて、それを郵送してあげるサービス。

法律を一生懸命守って事業をすると損をする、それこそ「残念な国」なんじゃないかなあと思います。

先日後藤さんがFCCJで講演されたので、その講演録と動画はこちら。



日経ビジネスオンライン記事:誰も理解していなかった「対面販売の原則」
CNet記事:ケンコーコム後藤氏、ネット販売規制合憲に「極めて不当な判決」「最後まで闘う」

eビジネス推進連合会:一般用医薬品の通信販売規制に関する行政訴訟の判決に対するコメント