2010年2月21日日曜日

Open Government-2

先日Open Governmentについてブログを書きましたが、続きを書きます。

オバマ大統領は昨年、今からちょうど一年ぐらい前の3月5日にCIO(連邦政府最高情報責任者)として当時34歳だったVivek Kundraさんを指名しました。そしてその後アメリカのOpen Government/Government2.0は政府レベル、そして地域政府レベルでも進められています。彼は何者で、どういうことを進めようとしていたのか。

一年前のクンドラさん就任時に書かれたこちらの記事から引用します。
合衆国初代CIOに34歳インド系ヴィべク・クンドラ (Vivek Kundra)が就任

危機の真っ只中にある世界で、ITに何ができるか? 3月5日に指名を受けた新CIOは、オバマ大統領との25分間のカンファレンスコールの中で、システムの構築とメンテナンスにおける旧習の打破を説き、クラウド・コンピューティングの積極的活用を主張し民間をしのぐほどの効率的・効果的なサービスを実現したいと述べたという。NYTimes のハンセル記者は「政府のコンピュータシステム改革で、ヴィベク・クンドラがやりたいこと全部並べたら、医療保険制度改革でさえ簡単に思えてきた」と書いている。 


当該New York Timesの一年前の記事はこちら:
The Nation’s New Chief Information Officer Speaks

クンドラCIOの発想の基本は、まず「政府が特別な存在だと考えるのを止めること」だ。個々の問題に対応する専用のシステムを設計するのではなく、可能な限り出来合いのアプリケーション、サービスを利用する。さもないと、一般の教師や、警官、公務員は、一般社会人より貧弱な情報環境で仕事をしなければならなくなる。


大事なことなのでもう一度。
クンドラCIOの発想の基本は、まず「政府が特別な存在だと考えるのを止めること」だ。

もちろん、クラウド・コンピューティングには、セキュリティとプライバシーの問題がつきまとう。しかし、このサービスのスピードと効率を考えれば、問題があるから採用を避けるよりは、バランスを考えながら問題の解決を考えたほうがいい、と彼は言う。
セキュリティ/プライバシー(以下S&Pとしておく)は、それ自体が技術とビジネス(政治)的判断が絡む問題で、トップが明快で妥当な指針とプロセスを定義し、ベストプラクティスを行っていくしかない米国政府が決めれば、民間でも採用するところは多くなるだろう。クンドラCIOの就任は、IT(ソフトウェア)産業のビジネスモデルを大きく変える転機にもなるかもしれない。


クラウドコンピューティングは前から単語はあったけれど新聞にも載ったり一般人の口からも出るようになったのはここ最近。セキュリティ・プライバシーと利便性・スピードのバランスの問題も現在ホットな話題。クンドラさんの就任がIT産業のビジネスモデルを大きく変える転機になったとは言えないかも知れないけれど、今IT業界のど真ん中で議論されていることにぴったりと政府自体も実践を伴って乗っかってきています。

TwitterをやっていないのにTwitterの面白さについて語ることができないように、まずは自分達が使って理解して議論しないと地に足がつかない。クラウドコンピューティングについて文献を読み、理解したつもりで「日本でもクラウドコンピューティングの政策だ、やー!」とか言われても単なるバズワードを掲げられている気しか起きないのはそのせいではないかと思うのです。使ってみないとわからない。そして使ってみるためのコストと時間が圧倒的に低くなっている。昔はシステムを作るのにも時間をかけてスペックを決めて大量のお金を投じて作り上げていたのでスピード感が違っていた。今は簡単にプロトタイピングができて、スピーディーに試してみてスピーディーに直すことができる。石橋を叩いているうちに世界が10年先に行ってしまうのを待たず、まずは使ってみて修正していくことが大事なのだと思います。鳩山さんがTwitterなんて始めたら大問題になるっておっしゃっていた人もいますが、やれる範囲でやる・一日一回ツイートするということで順調に一ヵ月半続けられています。直接のインタラクションはないので物足りないと感じる人はいるかもしれませんが、フォロー相手のツイートは首相執務室の専用ディスプレイに表示して時々読んでいるらしい。「それを読んで少しでもみなさんの生の声を知りたいと思っています」だそうですから、少しずつ進んでいるということでしょう。

引用を続けます。

“Gov. 2.0″=政策プロセスへの国民参加へ

情報公開は民主主義の原則だが、これを制限する理屈は(「テロとの戦い」をはじめ)1ダース以上もある。オバマ政権が公約した政治の公開性は、ロビイストを主要なエージェントとする、インサイダーによる「ワシントン政治」が機能不全を起こしているという認識に立ち、国民が情報を共有することで、オープンに議論し、納得のいく決定に至るプロセスを確立しようというものだ。ここでIT(とくにWeb 2.0環境)が大きな役割を果たす。さもないと、ただのマスメディア向けのお題目となり、政治不信をさらに高めるだろう。これを理想主義と見る人は多いだろうが、オバマはWeb 2.0の「ユーザーエクスペリエンス」を通じてひとつの確信を持っていると思う。



ロビイストを主要なエージェントとする、インサイダーによる「ワシントン政治」が機能不全を起こしている

族議員と官僚を主要なエージェントとする、インサイダーによる「官僚政治」が機能不全を起こしていた。政権交代以降は族議員の力が弱まり、情報のオープン化が行われ、官僚主導ではなく政治家主導でフレームワークが作られ、国民参加の政治が行われるようになった。。。と後世に言えるとよいのだがどうなるでしょう。

そうそう、アメリカではCreative Commonsを作った Lawrence Lessig が今やっている Fix Congress First もあります。

たとえば「景気刺激プラン」「金融システム救済」「ビッグスリー救済」「医療保険改革」など、強烈な副作用を伴いそうな劇薬をあえて使うためには、オバマのカリスマ性を持ってしても<誰かが得をしている>とか<自分たちは犠牲になっている>といった疑念にいちいち答えていかなければ治療は進まない情報公開は、だから改革戦略の不可欠の手段でもある。迅速に・徹底して行われねばならず、それが成否の鍵を握る。これは、世界最大の組織のCIOに課せられた、前人未到の挑戦だ(だんだん気が遠くなってきた)。


超重要。

情報公開の前提は、要注意(sensitive)情報を事前にチェックし、削除することだが、これに余計な時間=コストがかかることになっては意味がなくなりかねない。すべては、現実的なバランスをどこでとるか、そして(例えばルールベースの利用による)プロセスの自動化・インテリジェント化によって、どこまで効率化できるかということだろう。クンドラCIOは、コトの難しさと技術の限界を知っている。それは重要なことだ。
クンドラCIOのタスクリストのもう一つのテーマは、政府情報のリポジトリ “Data.gov”の創設だ。これには、NIHの「人ゲノムプロジェクト」のデータや軍事偵察衛星のデータが含まれる「プライバシーや国家安全保障に関るものを除き、すべてのデータは公開できる」と彼は答えている。


もひとつ重要。
クンドラCIOは、コトの難しさと技術の限界を知っている。

クンドラさんはヴァージニア大学で政治学を、メリーランド大学で情報技術を学び、その後地方政府で公共政策とITの職を兼務し、「電子政府」の経験を重ねている。ワシントンDC地方政府のCTOを務め、86の行政部局のテクノロジー戦略を担当。入札手続きはYouTubeで公開。スタッフは業務に Wikipedia や Twitter 、Facebook を利用。情報公開と市民参加、コスト削減の成果が評価されて2008年の “IT Executive of the year” 25名のうちに選ばれている。

ワシントンポスト紙記事“DC’s Kinetic Tech Czar

先日の記事で"Apps For America"という政府のデータを使って民間の人達がアプリを作るコンテストの紹介をしましたが、クンドラさんはDC地方政府時代に"Apps for Democracy" というコンテストを開催して、ウェブと携帯電話を使って市の情報にアクセスできるようにするソフトを公募したりしていたのです。

こうして地方政府で「情報公開と市民参加、コスト削減」の実績を上げた人を連邦政府でトップに据え、どんどん実践していく。そして更にその流れが他の地方政府に広まっていき、地方のIT化が進み、人々の利便性が上がっていくという現場を今目の当たりにしているわけです。

前の記事で書いた政府とIT系の人たちが政府の情報化を進めるためにやっているSNS"Govloop"でも、地方政府の人達が色々な取り組みを紹介したり勉強したり水平展開するようなことが起きているそうです。

更に"Code for America"のようなサイトもできて、こちらのウリは地方政府とWeb2.0のタレントをつなごう("Connecting city governments and Web 2.0 talent")というもの。「webギークと市のエキスパートとテクノロジー業界のトップ」で構成されているチームなのだそうです。もちろんTim O’Reillyも役員で入っているし、アドバイザーにはClay Shirkyの名前も。

現在のワシントンDC地方政府のサイトで、例えばDCAppStoreというページには、市民の投票により政府が作ったアプリ10個(DCのwifiマップやバスのリアルタイム情報や犯罪マップなど)が掲載されています。また、その横には市民が作成したアプリ10個(駐車場情報や犯罪情報に基づいた安全なバー情報)も掲載されています。



他の都市も、例えばこちらはサンフランシスコ市のイノベーションショーケースのサイト。犯罪情報・交通情報を中心にたくさんのiPhoneアプリやサイトが並んでいます。



サンフランシスコ市長が昨年出したOpen Data Directive(指令)はこちら(PDF)。 それを実現するための具体的なやり方・プロセスマップのサイトは"How to Submit Datasets to DataSF"。中央政府や省庁レベルだけじゃなく州や市でもITを使った「情報公開と市民参加、コスト削減、利便性向上」がどんどん進められているのです。

こうして、どんどんIT投資が進むわけですが、そのIT投資は本当に有効に使われているのかをチェックする必要があり、それも国民に対してオープンにする。というわけで作られたサイトがIT Dashboard。このページで"investments"のタブをクリックすると、全省庁、もしくはそれぞれの省庁のIT投資額のうち金額が大きな物とその評価を見ることができます。こちらが全省庁のもの。



こちらが省庁毎のもの。(これは Department of Defenseのもの)



この色分けの評価は赤が「重大な問題を抱える」黄色が「要注意」緑が「普通」となっており、その評価基準がどうなっているのかを説明すると長くなるのでこちらをお読みください。ざっくり言うと初期はコストの評価とスケジュールの評価が50%ずつの全体評価があって、その後CIOによる評価が入ってくるという仕組みです。

で、これは評価してその評価結果をオープンにして、オープンにしたぞイエイ!とか喜んで終わるためのものではないので、実際に評価が低いプロジェクトは見直しやお取りつぶしになるわけです。例えばVeterans Affairs DepartmentではIT Dashboardでの評価を元に、17ヶ月遅れになっているプロジェクトや予算オーバーなどの問題が発生している45個のプロジェクトについてプロジェクトを廃止するかどうかも含めた見直しのため、ストップがかかりました。

OMB's dashboard site plays role in suspending 45 tech projects at VA

クンドラさんはこのIT DashboardのようなものをDC地方政府の時代から使っていたそうで、IT管理の株式市場モデル("stock market model")と呼び、企業におけるプロジェクトやプログラム管理と同様に考えています。DC政府のポートフォリオマネージャー達は「コスト・時間・価値」に基づいたIT投資への評価を年に4回実施していたとのこと。クンドラさんは今度は連邦政府で、アメリカ市民に対して、IT Dashboardのコメント機能を使って、新しいプロジェクトを提案したり、現在進行形のITプロジェクトについてアドバイスを行うように呼びかけています。

なお、上述のサイトは省庁毎、大きな金額の投資のみというビッグピクチャを見るためのサイトですが、金額が小さなIT投資も含めて全てのIT投資についても見たい場合は、同じくIT Dashboardの"Treemap Visualization"のサイトで全て見ることができます。こちらは省庁横断でジャンル毎(例えば医療とか、国防とか)にドリルダウンできるようになっており、ドリルダウンのレベル(どこまで細かく見るか)も自分で決めて見ることができ、そのジャンルについて投資金額等の詳細を見ることができます。



政府全体のIT投資がトップページに表示されており、クリックしてどんどんドリルダウンして詳細まで入っていけます。



そして自分が関心のある情報の広さになったら"view investments"をクリックすれば、その範囲でのIT投資額が表示されます。省庁名や項目と金額は全て表示されますが、詳細が出るのはチェックマークのついている金額の大きなもののみ。読む側も小さなものまでチェックしてたらきりがないし、報告する側も小さなものまでやっていると報告の仕事が増えてしまって本末転倒なので、理にかなっていると思います。



そしてプロジェクト名をクリックすると、その投資についての現状フェーズ、金額、責任者、契約先、評価その他の情報を見ることができます。



もう一つサイトの紹介。Open Government Tracker

そのものズバリすぎる名前ですが、どの省庁がどれだけちゃんとOpen Governmentしているかというトラッキングサイトです。開発者2人は「ワシントンDCが雪で閉ざされてたんで作った」と書いてます(一人はDC、一人はSF)が、2人ともNASAのシステム開発に関わっている人で、これはサイドプロジェクトのようです。そういえばずっと前にSFに行ったときに某インキュベーションオフィスでNASAのプロジェクトをやっている人たちがいた!あのチームかな。

先のブログでも書いた通り、各省庁は2月6日のデッドラインに合わせて「国民が政策づくりに参加できるような双方向サイト」を作りました。基本的には国民がアイディアを投稿し、投票したりコメントをつけたりすることができるような物です。

で、このサイトはそれらのトラッキングサイト。横にずらりと並んだのが省庁で、それぞれ投稿されたアイディア数、投票数、コメント数が表示されています。盛り上がっている省庁と盛り上がっていない省庁が一目瞭然。



更に、Collaboration・Participation・Transparency・Innovationという4つの項目で、省庁横断で最も評価の高いアイディアを掲載。多分リアルタイムで変わるので参考までですが、現時点でのトップは下記。

Collaboration→NASAへのオープンソースデザインの提案。何千人という宇宙ファンは喜んでNASAのためにデザインとか無料でやっちゃうんだけど!というもの。

Participation→教育省へのオープンソース教科書の提案。今の教科書は高いし質も良くないので、無料でオープンソースの教科書を作ってどんどん修正を加えられるようなものを作るべき。

Transparency→国務省への提案で、政情不安化しているスーダンへのアクセスに関する進捗情報を開示し、透明性を高めよ、というもの。

Innovation→米復員軍人省への提案で、(VAレーティング等の)文書をオンラインで入手できるシステムでペーパーレス化すべきというもの。



最もアイディア・投票・コメントが多い省庁と
最もアイディア・投票・コメントが少ない省庁を紹介。



省庁毎の状況一覧。アイディア数、投票数、コメント数、アイディア投稿者数など。




最後にもう一個ご紹介。Six Apartでもっとも有名なエンジニアの一人だったAnil Dashですが、数ヶ月前にExpert Labsというノンプロフィットで独立系のラボの立ち上げに加わっています。Expert Labsのミッションは「アメリカの連邦政府が市民の(群集の英知・クラウドソーシング的な)力を借りるための協力」をすること。 数日前にブログで進捗報告をしていたので紹介しておきます。

Expert Labs, ThinkTank, Gina Trapani and our Grand Challenges

"Grand Challenges"において、ホワイトハウスとの協業が決定。(ホワイトハウスのサイトにも記述あり)

昨年9月にオバマ大統領はアメリカのイノベーションと雇用創出に関する戦略"Strategy for American Innovation"を出しています。肝は科学とテクノロジーなので、ホワイトハウスとしては科学技術コミュニティの協力が必要で、優先順位をつけたりアドバイスをしたりしてほしい。そこで、Expert Labsがスポンサーとなり、政治家や技術コミュニティメンバーが、現在ウェブ上に存在する様々なSNSを横断で議論ができるようなプラットフォームを開発するのを支援することになり、そのプラットフォームにThinkTankというwebアプリが選ばれたとのこと。ThinkTankの開発者のGina TrapaniLifeHackerの創業時からの編集者でブロガー、Google本の著者でGoogleに関するポッドキャスト番組"This Week in Google"をLeo LaporteやJeff Jarvis等と共にやっている人で、これを機に Expert Labsに加わるそうです。無料でオープンソース、既存の技術やAPIを使い、クラウド環境で政府機関でも私企業でも個人でも使いやすいプラットフォームを作っていくことになります。

ホワイトハウスと仕事をしての、Anilの感想を抜粋&超訳。

"米連邦政府はオープンで国民のアクセス性を高くするという目標に向かって極めてスピーディに動いている。まだまだ国民参加は少ないけれど、その動機づけのためにも国民の意見が本当に政策決定に直接影響するということを示すべきだと思う。

テクノロジー業界の人にとって、今は大きなチャンス。僕は数年前までは単にPHPでCMSのプログラムを書いているだけの人間だったが、今はホワイトハウスに行ってテクノロジープラットフォームを作るための手伝いをしている。そのプラットフォームは我々が毎日使っているようなSNSにつながる。それらのテクノロジーがメディアやビジネスを変えたように、今度は政策立案を変えていく効果をもっているんだ。

政府の人たちは非常によく耳を傾けてくれている。それは僕の声だけではなくて、技術コミュニティみんなの声を聞こうとしている。今ウェブプログラマーをやっている人は政治や政策について知識がなかったとしても大きな影響を与えられる可能性をもっている。役人にならなくてもThinkTankのコードを直したり、メーリングリストでコミュニティに加わったり、色々な手段で自分の力を国のために役立てることができる。新しい技術で遊んだり、オープンソースプロジェクトに参加してオンラインのクラウドソーシングについて学んだりしたことを共有するだけでも、政府が国民のアイディアを聞こうとしているプロジェクトの役に立つんだよ。"

いいですね。日本のエンジニアの皆さんも日本政府のGovernment2.0にとっても役に立てると思うのですが!私はエンジニアじゃないので役に立てないけど!(笑)

今日はここまで!

その他関連で:

O'reillyから"Open Government"という書籍が発売されたようです。432ページもある大作ですが、
ここから143ページのPDFサンプルを落とせます

ホワイトハウスの "Open Innovation Gallery"

「米国連邦政府におけるオープン・ガバメント政策を巡る動向」(PDF)